こんにちは。
アイオー・安楽です。
突然ですが、皆さんのヒップホップアンセムはなんですか?
なかなか、急に問われると答えづらい質問だと思います。
今回は、現在話題になっている「CreepyNutsの合法的トビカタノススメはB-BOYイズム以来のヒップホップアンセムなのか」ということについて、考えてみます。
これは、「テレビ朝日の関ジャム 完全熱show」で、CreepyNutsが上記のように紹介されたことを発端に、ツイッター上で論争が交わされています。
なかなか、普段HIPHOPに触れていない方たちには、どうしてここまで炎上しているのかが理解できていないと思います。
なかなか、外部の人からすると、「ヒップホップアンセム」としてCreepyNutsを取り上げる事の何がおかしいのか理解できない点もあると思います。
そして、そのような理解不足が原因で、今回のようなCreepyNutsの紹介のされ方がされてしまったと思います。
この議論については、「俺が思うヒップホップアンセムはこれ!」「そもそもBBOYイズムがヒップホップアンセムじゃない」等、様々な意見があります。
この件について色々と考える節があったので、今回は多角的にこの問題について、考えてみます。
そもそもB-BOYイズムはヒップホップアンセムなのか?
そもそもRHYMESTERのB-BOYイズムは、ヒップホップアンセムなのでしょうか?
30代から40代のヘッズであれば誰でも知っている曲なのは間違いないと思います。
そして、よくMCバトルのビートでも使われているので、若年層も知っている割合が高いでしょう。
しかし、知っている事とその曲が好きな事は似て非なるものです。
B-BOYイズムを知っているからと言って、好きだとは限りません。
RHYMESTERはHIPHOPシーン出身でありながら、ポップ層にも人気がある特殊な立ち位置のグループです。
この部分では、CreepyNutsに似ている部分があります。
しかし、HIPHOPヘッズの中には、そんなRHYMESTERをよく思わない人たちもいます。
特に、ハードコアなHIPHOPが好きなヘッズから、彼らのポップ層にも受けるような作品性は気に入らない、という意見は、それなりに聞きます。
また、彼らが割と恵まれた出自という点も、「逆境から成り上がるぞ!」というハードコアなヘッズの価値観とも相容れなかったのかもしれません。
そんなRHYMESTERに対するスタンスを垣間見ることができる曲があります。
DEVLARGEが選曲したコンピレーションアルバムに収録されている、「証言」のビートを使った「暴言」という曲です。
この曲は、参加するラッパーがそれぞれの不満を主題にラップしている曲なのですが、メシアTHEフライは、次のようにラップしています。
メシアTHEフライのバース
これがヒップホップごり押しの変なおじさん
業界の甘い汁でべとついたご自慢のモヒカン
単なる副業 感覚はバイトだろ
見世物小屋の猿含めバビロン野郎
なんとなくやって拾われた
単体じゃ戦闘能力0のギャグラップサークル
同好会 俺達って超硬派
サックはめてナックルだ ファックキャンパスライフ
この「なんとなくやって拾われた 単体じゃ戦闘力0のギャグラップサークル 同好会
俺達って超硬派 サックはめてナックルだ ファックキャンパスライフ」というリリックは、早稲田大学の「ソウルミュージック研究会GALAXY」を指していると言われています。
GALAXYは、RHYMESTERも所属していたサークルです。
GALAXYは、RHYMESTERの他にも、志人やKEN THE 390、G.RINAといった様々なアーティストを排出しています。
そして、Amebreak編集長でラップスタア誕生では審査員を務める、伊藤雄介氏のような、ライターやメディア関係の著名人も多く排出しています。
Twitterで有名なHIPHOP界隈でフォロワー数の多いアカウントの中の人にも、GALAXY出身者がいます。
「ヒップホップ界のフリーメイソン」と呼ばれているように、公にはしていなくても「え?あの人も?」というラッパーやインフルエンサーの中にも、GALAXY出身者は多いため、「業界で幅を効かせている」と揶揄されることもあります。(今はそう言われることも少ないようです)
そこで、メシアTHEフライのGALAXYに対するヘイトのように、GALAXYに対して良くない印象を持っている人も、少し前にはいたようです。
そして、RHYMESTERに対しても同様の感情を持っているヘッズはそれなりにいました。
このような事から、「そもそもBBOYイズムはヒップホップアンセムか」と言われると、全肯定できないというのが、私の印象です。
CreepyNutsの微妙な立ち位置
続いて、「CreepyNutsの合法的トビカタノススメはヒップホップアンセムなのか?」について、考えます。
私はコロナ前は、ちょくちょくHIPHOP系のイベントに顔を出していましたが、合法的のススメがかかっているのを見たことがありません。
また、私自身も合法的トビカタノススメを、あえて聴こうと思って、You TubeやApple Musicで流したことはないですし、周りの友人もあまり聴いていません。
反対に、普段ポップスを聴くような知り合いや、ヒップホップを聴かなそうな人と音楽の話をすると、CreepyNutsの話が出てきます。
このように、普段ポップスを聴くような人や、近年のMCバトルブームからヒップホップを好きになったライト層にCreepyNutsのファンは多い印象です。
そして、CreepyNuts自身もライトな層をファンに獲得しようとして、マーケティングしている趣もあります。
反対に、コアなヘッズには、むしろCreepyNutsを好きではない人が多いと思います。
バトルにあまり興味がなくて、音源ばかり聴いているヘッズは勿論、R指定のバトルの強さは認めていても、CreepyNutsの音源は好きではないヘッズは多いです。
そんな、CreepyNutsの曲が「ヒップホップアンセム」として、紹介されるのは、腑に落ちないのも当然です。
これが、今回の関ジャムでの紹介のされ方が炎上してしまった理由の1つだと思います。
ヒップホップアンセムとは?
そもそも、アンセムとはどういった意味なのでしょうか。
アンセムは、元々教会音楽の一種を指す言葉で、特定の集団のシンボルとなるような歌を指します。
現在のHIPHOPシーンは、多種多様なジャンルが存在しています。
CreepyNutsのようなライト層に人気なアーティストもいれば、t-aceのようにキャバ嬢に人気なアーティストもいれば、変態紳士クラブのようにTickTok界隈で人気なアーティストもいます。
このように、ジャンルが細分化されているため、もはや「ヒップホップアンセム」と、「ヒップホップ」という大きな括りでアンセムを決めてしまう事自体が、おかしいのです。
そもそも、HIOHOPのメインストリームはUSです。
それを無視して、「ヒップホップアンセム」という切り口で、BBOYイズムと合法的トビカタノススメを紹介するのは、日本国内しか見えていない非常に狭い視野からくる発言だと思います。
大手メディアでのHIPHOPでの取り扱われ方
また、今回テレ朝の関ジャムという、大手メディアでこのような紹介がされたのが、今回の炎上の一因でもあると思います。
最近は徐々になくなってきましたが、日本の大手メディアでは、不遇な取り扱われ方がされてきました。
「YO!YO!」「チェケラッチョ!」というイメージからくるCMや、テレビ番組でのオマージュなどです。
こういった事情もあって、俗に「HIPHOP警察」と言われるヘッズは、大手メディアでのHIPHOPの取り扱われ方に、過敏に反応してしまいます。
「素人の紹介の仕方だからしょうがない」という意見もあると思いますが、HIPHOP警察的な規範から外れていると、それを正さないといけない意識が働いてしまうのです。
これは、日本でHIPHOPが正しく普及する一助を担っていると思います。
そんな理由で、大手TV局の番組という、多くの人がみるメディアでこのような紹介のされをされたのも、今回の炎上の一因になっています。
ということで、「BBOYイズムはヒップホップアンセムなのか?」「CreepyNutsの立ち位置」「ヒップホップアンセムとは何か?」「大手メディアでの取り扱われ方」の4つの視点から、今回の騒動について考えてみました。
今回色々考えてみましたが、「それぞれの集団や個人に、それぞれのヒップホップアンセムがある」というのが、一つの結論なのかなと思います。
本来、アンセムは特定の集団で共有して盛り上がれる曲を指しますが、「ほとんど誰にも伝わらないけど、俺(私)はこれがアンセム!」という曲もあります。
こうなると、みうらじゅん氏が提唱した「マイブーム」的世界になってきます。
「ブーム」も、元々は「世間一般で流行っているもの」を指す言葉でしたが、自分だけのブームという意味合いで、みうらじゅん氏が「マイブーム」という言葉使い始めたところ、流行語大賞に選ばれるほど、世間に浸透していきました。
関ジャムの紹介も「BBOYイズム以来のマイアンセム!」という紹介をしていれば、誰も気にしなかったはずです。
だって、マイアンセムだもの。
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